山田初江先生の建築。
鵠沼の家の改修に携わった三人が報告の原稿を書きました。
建築家・山田初江さんが設計した住宅を耐震補強して減築する
2016年7月、英国から届いたメールが始まりでした。尊敬する建築家・山田初江さんが六十年前に設計した住宅を修繕して「人が居住できる状態」にしたい、さらに耐震性と設備回りのチェックをして欲しいとの依頼。山田先生の所員でもない僕になぜこのような話が来たのか、それは先生の自宅と僕の家が同じ町内で以前から親交あり、僕が設計した家を見て褒めてくださったり、あるときは檄を飛ばしてくださる師のような方であることをたびたび書いていたブログを建て主さんが目にしたことが出会いのきっかけでした。実際に建物を見に行くと、あぁ先生らしい大胆な建築。大きく張り出した軒とリビングとダイニングキッチンがスキップし、元設計では玄関がない。また先生の特徴である通風を考慮したディティールが素晴らしい。そこで考えたのが増築部分などを減築して元設計にもどして耐震補強をする、デザインなどにはいっさい手を加えないこと。それから設計と施工は耐震診断、補強に強い鎌倉支部の仲間とやりたい。構造は山中さん、施工は森安さんにお願いすることにした。二人に今回の仕事について、思いを書いて頂きました。
森ヒロシ建築設計所 森 博
君島・大橋邸 構造の検討「時代を超えて生きるディティール」
伝統的建築物の定義ではないが、有名建築家の名建築として後世に残すべき良き建築に手を入れるという仕事。建築された時代のなかで、建築家の独自の解釈にて試行錯誤され完成している。これらをどのように残していくか、これが今回の責務。本建築は量販住宅にありがちな最低限の仕様ではなく、当時の考え方を凝縮したような構造ディティールが採用されている。この建物を初めて見たときにこれは残せると確信した。さらに普通の耐震診断を行うのではなく、限りなく当時の面持ちを残す検討方法を採用し、詳細なディティールも合わせることを心掛けた。結果として一部は補強材を設置することにはなったものの、巧みに隠すことだけにとらわれず、更新し残す意思をはっきりと見せた補強方法を考えた。ゆかりのある建築家たちが完成披露会に多く来て頂いたが、「残せる」ということに喜びを抱いていただいたようで担当した私も胸をなでおろした。
株式会社 悟工房 山中信悟
「改修と耐震補強、当時のディティール」
この改修のお話を頂き、はじめに既存建物の状況を確認するための準備解体を行った。やはり現存する図面とは違う構造や大きな劣化部分を発見するたびに、この先の工事に不安を覚えました。しかし壊してしまった以上、前進するしかなく壊してはどんどん補強して造ってゆくことの繰り返しが続きました。改修する中で、当時工夫された耐震構造と思われるディティールがあらわれて驚きました。また、耐震補強を行う上で当時の納まりと仕上げのチリが変わってしまい施工で悩むところが多くありました。とは言え、そのような悩みを解決させる工夫も今回の仕事の醍醐味で、山田先生の元設計を大切にしながら設計、構造、施工の地元三人組が現場で喧々諤々話し合って造り上げることが出来たことがおもしろい試みだったと思いました。
芙蓉建設工業株式会社 森安啓司
地元の三人が協力して、今の建築基準法まで耐震性を上げることが出来た仕事でした。減築することで、元設計にあった「アウトドアリビング」と「通り土間」を再現することが出来ました。先生らしいネーミングです。建て主さんが開いてくださったお披露目会では、山田先生がお出ましになり久々に建て主さんとの再会となりました。建て主さんの「残したい」という思いから始まった仕事を鎌倉支部の仲間と出来たことが嬉しかったですね。 森
Photograph by suumo
- 2017.12.06